レインボーズ・エンド

レインボーズ・エンド上 (創元SF文庫)

レインボーズ・エンド上 (創元SF文庫)

レインボーズ・エンド下 (創元SF文庫)

レインボーズ・エンド下 (創元SF文庫)

ヴァーナー・ヴィンジの最新作

プロローグでは、近未来において人間を洗脳するウィルスが開発されていることが述べられ、国際謀略ものかと思っていたら、次からは一転、アルツハイマーが治った老人の生涯学習についての話が延々と展開される。もっとも、ここからその国際的な陰謀に繋がっていくんだが、「遠き神々の炎〈上〉 (創元SF文庫)遠き神々の炎〈下〉 (創元SF文庫)」などを読んでいるとスケールの小ささに半ば愕然とする。けれども、そこはさすがヴィンジといったところで、AR(拡張現実)によって実現された日常を余す所無く魅力的に描いている。主人公がアルツハイマーの老人というのも、急速に発達する技術の中で既存の知識が役に立たなくなる悲哀を描くという意味において最適であるといえる。
ヴィンジというと技術的特異点(シンギュラリティ)の提唱者として知られている。シンギュラリティというと、シンギュラリティ後の世界を描いたスペオペ作品群があるが、あれらは結局シンギュラリティそのものについてはあまり述べておらず、結局取り残された人々の話であったりする。その点から言うと、この作品はシンギュラリティ前夜の世界とシンギュラリティに向かう個人をはっきりと描ききっており、さすが提唱者と言えるだろう。