ほん駒場祭用

ニュートンズ・ウェイク (ハヤカワ文庫SF)

ニュートンズ・ウェイク (ハヤカワ文庫SF)

社会主義者の著者による、社会主義スペースオペラの融合作。
ケン・マクラウドの作品は短編を読んでいるが、そちらの方は話がまとまっていて、良かった。しかし、本作の場合は、社会や政治の状況説明をするために
多くを割いていて、また、登場人物が結構呑気に描かれているため、スペースオペラとしての展開の遅さを感じずにはいられない。というより、スペオペでシンギュラリティで社会主義という設定は、シンギュラリティ・スカイを読んだものにはきついとしかいいようのない。社会主義に詳しい方は途中のプレジネフやゴルバチョフが出てくる改変劇は楽しめるかと思います。

アークエンジェル・プロトコル (ハヤカワ文庫SF)

アークエンジェル・プロトコル (ハヤカワ文庫SF)

ネットワークが張り巡らされた社会で、接続からはずされた主人公と書くとサイバーパンクの王道のようなんだけど、宗教国家になりつつあるアメリカが舞台だと全然話が違ってくる。その上、天使が出てくるファンタジーなので、もうジャンルなんて意味がないと思わせてくれる作品です。
アメリカ探偵小説協会賞受賞と書いてあったので、最初SFだと気づきませんでした。

スペオペにしろ、サイバーパンクにしろ未来は真っ暗だ。

不思議の森のアリス (ダーク・ファンタジー・コレクション2)

不思議の森のアリス (ダーク・ファンタジー・コレクション2)

リチャード・マシスンの短編集が出たというので、購入。基本はホラーテイストなのだが、ジャンルの境界が曖昧になっている作品が多い。

待ちに待っていた、グラン・ヴァカンスの続編。
前作グラン・ヴァカンスでは仮想現実を舞台にしながらも、話の全貌が見えておらず、異世界を舞台にしたファンタジーとも取れたのだが、この短編集の中では前作に不足していたSF成分が十分に補われ、その生成から崩壊まで数値海岸についての膨大な背景知識が現実世界と仮想世界、2つの世界を通して語られている。
数値海岸の日常やその背後の現実世界でのエピソードから前作の世界が深まり、また、広がった世界からどのように物語が進んでいくのか、何とも待ち遠しい。
今回書き下ろされた「魔術師」では、数値海岸から人間が消えた大途絶について語られるのですが、この原因というのは仮想世界のAIにとっては実に悲劇的なものだ。
傑作である本作品に関する最大の不満は何かあげるとすれば、本来「廃園の天使」シリーズの第2作として出る予定だったのは、あくまで「空の園丁」であって、それがいつまでも「SFが読みたい」の巻末から消えないこと以外ありえない。